Book Review 『倫理とは何か　猫のアインジヒトの挑戦』


日本では数少ない（？）自ら哲学する哲学者、永井均 氏による倫理学の本。
以前「なぜ人を殺してはいけないのか」とＴＶ番組で問いかけた高校生がいて話題になりましたが、この本はその問いに答える手がかりになりそうです。

産業図書 の哲学教科書シリーズの中の一冊として企画された本なので教科書的な要素はもちろんあります。一通り読めば倫理学の大きな流れはとらえられると思います。
けれどこの本（に限らず永井均の本）はそれにとどまらず、自分で考えるきっかけになるような刺激があちこちに埋め込まれています。ただし彼自身がしつこく書いているように問題を一部でも共有できるならばですが。

「なぜ人を殺してはいけないのか」
僕が思うにはこの問いに答える動機は大きく分けて２つあると思います。一つは世の中を「より道徳的」にしたいという動機。もう一つは「人を殺してはいけない」という道徳を語ることはなぜ可能なのか（あるいは不可能なのか）という疑問に答えたいという動機です。

前者は大江健三郎さんにでも任せておいて、後者を考えたいという人にお勧めの一冊だと思います。決して「道徳的」な本ではないのであしからず。
以前に出版されたまさに『なぜ人を殺してはいけないのか?』というタイトルの本（永井均×小泉義之）では、それぞれこの二つの異なった動機をもった学者が全然かみ合わない議論を繰り広げていて笑えます。
僕なら「なぜ人を殺してはいけないのか」と子どもに聞かれたら、「殺してはいけないとは誰にも言えないよ。でも僕は（たぶん）殺さない」と答えるような気がします。

Posted: 月 - 9月 22, 2003 at 11:48 午後       |

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